どこからか微かに風鈴の鳴るような澄んだ音が聞こえる。

突風が山を包み、にわかに森が慌しくなった。

木々にて寄り添いながら休息を取っていた鳥たちが本能のままに飛び立ち、巣穴からリスや鼠をはじめとした小動物がさながら川のように列を作って逃げ出した。

木々は擦れあい、揺れ、まるで何かか、誰かに警告を発しているのかのようである。


時間はまさに深夜。

山から見下ろす民家の窓はどれもこれもカーテンが閉まっていて、そこから明かりが漏れ出ている家もまばらである。

町は完全に眠っている。

ただ一箇所、ある学校と並び立つ裏山を除いて。


その山の、山頂より少し下ったあたりに、突如として無数の紫電が迸る。

強烈な破裂音を発しながら、それはある一点へと収束し始めた。

そうしてその場に出来たものはそう、「繭」と形容するのが一番妥当のようである。

だが、果たしてそれはおおよそ繭とは形容できたものだろうか。

なぜなら、それはただ鎮座しているのではなく、周囲の空間を歪めながら存在していた。

土が巻き上げられ、「繭」を成す紫電に弾かれて粉々になった。

「引力」に引き寄せられた葉も瞬く間に消滅させられていく。

まさに「繭」が周囲の環境を羽化のために捕食しているのかのような、異様な光景であった。


瞬間、「繭」が活動を止める。

周囲に静寂が舞い戻ったかにみえたそのとき、「繭」が、弾けた。

紫電の残滓が山の木々の間を通り抜け、山を奇妙に照らしあげる。


そうして、その光が空気へと解け始め、あたりが再び夜の体を成し始めた時。

そこには一人の人間が、両手に一抱えほどの荷物を大事そうに抱えて現れていた。


「彼」は顔を上げ、山頂へと歩き出す。

そうしてたどり着いた山頂から「彼」は町を見下ろす。

そして、ある平凡な一軒家を「彼」の目は捉えた。

「彼」は拳を握り締め、その体が小刻みに揺れ始める。

その口元は、笑っているかのように見えた。



今、ここに、一人の少年の、友と、存在をかけた戦いが、その幕を開けようとしていた。