彼にとって、これほど夜が長く感じられたことはなかった。 それは彼に限ったことではないのかもしれない。 しかし、どれほど長い夜にも、必ず朝は訪れるものだ。 少し開けておいた窓から、爽やかな風が吹き込み、心地良い日差しが瞼をくすぐる。 まるでこの二日間の出来事が、全て夢だったようにすら思えた。 いや、そうであって欲しかった。 しかし、部屋に響くノックの音が、そんな彼の希望を無情にも打ち砕くのだった。 『もう朝だぜ、ジャム』 ジャムはゆっくりと立ち上がり、深呼吸をすると、窓際に溢れる穏やかな空間に背を向け、ドアへと向かった。 『夕べはあまり眠れなかったんだろう?』 ジャムが答える間もなく、バイキンマンは続けた。 『俺もだよ』 ---------------- 『さて、これからどうするかだが…』 『奴らはパンだ。人間を相手にするのとは訳が違う。』 ジャムはすぐに答えた。この事は夜通し考えてあったのだ。 昨日までとは違うジャムの戦いへの姿勢を見て、バイキンマンはこれから共に戦う同志に頼もしさを覚えた。 『そうだな…奴らに有効なもの、というと…まずは水か。』 『それだけではない。パン作りにおいて重要なのは、衛生環境の整備だ。……これがどういう事だかわかるか?』 友の深い戦略に感心し、バイキンマンは微笑を浮かべた。 『なるほど…。うちのカビルンルンを使うという訳だな…。流石はパン作りの巨匠と呼ばれるだけの事はある。』 不意に扉が勢いよく開いた。 『かっ…閣下!!』 『何事だ!?』 『てっ…敵襲であります!!!』 ジャムとバイキンマンは顔を見合わせ、早すぎる戦いの始まりに息をのんだ。 『現在の状況は!?』 『敵の数はおよそ千!一部は空から攻めています!!既に山の中腹まで進攻しており、即座に守備隊を派遣しましたが、長くは持たないでしょう!!』 『敵軍の構成は!?』 『大多数がカレーパンとの情報!指揮官はおそらく…』 『カレーパンマンか……。奴ら…初めから本気のようだな。 …直ちにインド人部隊を派遣せよ!!』 『はっ!!!』 『しかし、それでは空の敵にはどう対処するんだ!?』 『心配は無用だ、ジャム。…俺が出る!』 『……!! しかし、それでは……』 『敵は早くも大物を出してきている!…こちらとしても出し惜しみはできない!! …ここの指揮はお前に任せたぞ!』 そう言い残すと、バイキンマンは急いで部屋を後にした。