あの演説から半日ほど経った今でも、二人の受けた衝撃が収まることはなかった。 しかし、二人を突き放すかのように、時計の針は淡々と進み続ける。 敵がいつ攻めてくるかわからない状況の中、迷っている暇などないのだ。 バイキンマンにはそれがわかっていた。 『なぁ、ジャム。奴らはもう、この山の麓まで来ているかもしれないんだぜ? あんたも早く、心を決めた方がいいんじゃないか?』 深刻な面持ちで、麓の街並みを見下ろしていたジャムは、飲みかけのワインを一気に飲み干し、短く、しかしはっきりと答えた。 『…戦おう。』 ---------------- 街の外れに佇む、灰色の建造物。 主を失ったその工場は、かつて子供たちに夢を与えていた姿は想像も出来ない程に、変わり果ててしまっていた。 自らを生み出した母なるオーブンを見つめながら、男は呟いた。 『本当にこれで良かったのだろうか…。』 誰に話し掛けるでもなく、彼は続ける。 『私はジャムを恨んでいる訳ではないのに…。』 『何をおっしゃってるんですか、あなた。』 妻のメロンパンナだった。 『あなたはこの革命の指導者なのよ。こんなところで弱気になっていてどうするの。』 『しかし…多くの犠牲者が出ることは私の本意ではない。人間にだって家族はあるだろうに…。』 メロンパンナは夫の躊躇いを許さなかった。 『何千、何万というパン達が、決意を固めているのよ。あなたが迷っていてどうするの!!』 その言葉は、アンパンマンの決意を一層強め、奮い立たせたのであった。 ---------------- それぞれの正義の為、戦うことを決意した両者。 互いにもう、迷いはなかった。