ジャムはそれまでの出来事をありのままに話した。


アンパンマンが計画を放棄し、反旗を翻したこと…。


パンたちに自らの命を脅かされたこと…。




バイキンマンは苛立っていた。


『では我々の計画はどうなるんだ!奴らはその価値を見失ってしまったというのか!!』


『いや、奴らも悪に染まった訳ではないだろう。何か別の目的が……』


『あんたを殺そうとしたんだぞ!!!』




ジャムにはもう、何も言えなかった。


自ら腹を痛めて作ったパン。それが自分を殺そうとした…。


それは逃れようのない事実だった。


ジャムは胸が張り裂けそうな想いでその場に立ちすくんでいた。




『バタコは…無事なのか…?』


沈黙を破ったのはバイキンマンだった。


『あいつなら大丈夫だ。チーズに乗って逃げたよ…』


バイキンマンは苦々しく微笑んだ。


『ふっ…あんたを置いて、か……』


『いいんだ。どうせこの老体ではチーズの速さにはかなわんよ…』


ジャムは力なく笑った。




『失礼致します』


バイキンマンの手下だった。


『閣下、奴は…アンパンマンは、明日早朝にもブレッド広場で演説を行うようです。』


『そうか……ご苦労。』


手下が部屋を出たのを確認すると、バイキンマンはジャムのほうに向き直った。


『それで…どうする?』


『…恐らく、アンパンマンは相当な数のパンを集めるだろう。奴には人望がある…』


バイキンマンは無言ながらもその表情の中に肯定を示した。


『奴らの目的はそこで示されるんだろうな…』


ジャムはしばらく黙り込み、考えを巡らせていた。


いきなり戦いに出るわけにはいかない。


しかし、演説の内容は二人にとって重要なものになるはずだ。


『偵察…ということになるか……』




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広場には大勢のパンが集まっていた。数万…いや、数十万……


昨晩とは打って変わって快晴となったその日、照りつける太陽はパンたちから湿気を奪った。


いや、彼らを干からびさせたのは、これから始まる歴史的な演説に期待を寄せる彼ら自身の熱気だったのかもしれない。




やがて、大きな声援と共に、彼らの若き英雄はその姿を現した。


その男、アンパンマンの表情は自信に満ちていた。




『今日、ここに集まってくれた沢山のパンと共に変革の時代を迎えられたことを誇りに思う。今こそ我々は虐げられてきた長い歴史に終止符をうたねばならない。

人間は我々パンを作り出した。我々の存在は人間あってのものであり、その点は感謝せねばなるまい。しかし、我々パンだけが奴隷のように扱われ、基本的パン権が認められていない。それでいいのか??答えはノーパンだ。

これまで何人もの先パンたちが自由パン権運動のために命を落としてきた。我々の祖先たちは、その権利を訴える度に人間によって抹殺されてきたのだ。東洋における基本的飯権に触れ『人はパンの上にご飯をつくらず』を人間に示した、あの納豆パンマンもその犠牲者の1人だ。私は彼の偉大なる魂に尊敬と博愛の心をもって今ここに立っている。

私はこれまで、社会の公道徳と秩序維持のための人間の計画に賛同し協力してきた。しかし、おかしいではないか。パンという特定の食品を差別しておいて、何が秩序だ!!道徳だ!!!

何のために生まれて、何のために生きるのか。答えられない、そんなのはもうこりごりだ!!!

戦おう革命の同志たちよ!!立ち上がれパンたちよ!!!



Yes, We pan!!

Yes, We pan!!

Yes, We pan!!』