人里離れた荒涼たる山々の頂上にそびえ立つは、鋼の要塞。降りしきる大雨がその堅牢な要塞のもの寂しさを一層際だたせている。


男は急いでいた。


雨に濡れた古ぼけた調理服が、これから起きる惨劇の始まりを無情にも暗示していたのかもしれない。




死の恐怖から逃れやっとの思いで鋼鉄の扉の前にたどり着いた男は、ひとまずの安心を抱きつつも、この友を頼らなければならない自らの無力さに憤りすら感じるのだった。




『……私だ、ジャムだ。』



----------------



『閣下、ジャム殿がお見えです。』



『何…!?』


『今すぐに閣下と接見致したいとのことです。』


閣下と呼ばれたその男の胸に、一抹の不安がよぎった。


『……緊急のようだな。よろしい、通せ。』



----------------



廊下に響く足音。


男は旧友との再会が刻一刻と近付いていることに、恐怖さえ感じていた。




ジャムがここを訪れた…


一体何が…
様々な想像が男の脳内を駆け巡る。


あの一件以来、二人が顔を合わせたことなどない。


その方が二人の計画をより円滑に進められたからだ。


それなのに何故、今になって……









気がつけば二人は対峙していた。


向かい合い、ただ壁に掛けられた時計の針の音だけが、二人の空間をいたづらに揺さぶる。




どれだけの時が経っただろうか。




ジャムがその重い口をゆっくりと開いた。


『……奴らが蜂起した。』




あまりにも残酷な一言だった。




バイキンマンは天を仰いだ。